知人から、こんな話を聞きました。
脳出血を発症した後、リハビリを受けながら生活していた方が、別の施設へ移ることになった。ところが、移った先にはそれまでのようなリハビリがなく、徐々に身体の状態が悪くなってしまったそうです。
僕の祖母も認知症になり、これまでいくつかの施設で生活してきました。その中で感じたのが、施設によってリハビリの環境はかなり違うということです。
では、実際のところはどうなのでしょうか。
厚生労働省の2024年の調査では、全国に介護老人保健施設(老健)は4,214施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、いわゆる特養)は8,621施設あります。
老健では、入所者100人に対して、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれかを常勤換算で1人以上配置する基準があります。一方、特養にも「機能訓練指導員」の配置基準はありますが、その資格はリハビリ専門職に限りません。看護職員や柔道整復師などが担うこともできます。
つまり、同じ「介護施設」であっても、リハビリ専門職がいることを前提とした施設もあれば、そうではない施設もあるということです。
では、専門職がいない施設は、新たに一人雇えばよいのでしょうか。もちろん、それも一つの方法です。ただ、人材やコストの問題もあり、すべての施設が専門職を常勤で配置できるわけではありません。
だからこそ僕は、「専門職がいない=リハビリができない」ではない方法を考えることも大切なのではないかと思っています。
ある特別養護老人ホームでは、施設内に理学療法士を常勤配置するのではなく、外部の病院に所属する理学療法士と連携する取り組みが行われました。
3人の理学療法士が交代で月3回施設を訪れ、1回あたり2時間半〜3時間ほど滞在。施設の機能訓練指導員と一緒に14人ほどの利用者さんを見ていった結果、移乗方法やベッド上での姿勢の見直し、活動範囲や生活の中での活動量の向上などにつながったと報告されています。
ここで大切なのは、専門家が来た日にだけ利用者さんを「リハビリしてもらう」のではなく、専門家の“見る目”を、普段利用者さんと接している職員さんたちに残していくことだと思います。
もう一つ、宮城県では、リハビリ専門職がいない特養や通所介護事業所を対象に、地域の理学療法士・作業療法士が施設を訪れ、現場の職員へ助言する取り組みが行われました。
特徴的なのは、専門的な筋力トレーニングを教えることが目的ではなかったことです。たとえば、ある利用者さんには「身体機能を維持する」ではなく、**「来年の夏祭りで、ステージに立ってカラオケを1曲歌う」**という目標を設定。そのために、大きな声で会話する、合唱やカラオケを取り入れるなど、日常の活動につなげました。
事業に参加した8施設・事業所へのアンケートでは、回答した担当者全員が「現在も取り組みを実践している」「機能訓練のイメージが変わった」と回答しています。
介護保険には、外部のリハビリ専門職などと連携して利用者さんの状態を評価し、個別機能訓練計画などにつなげる「生活機能向上連携加算」という仕組みがあります。
つまり、「専門職を一人雇う」か「専門職がいない」かの二択ではありません。必要なところで専門家の力を借り、その知見を施設の日常に残していくという方法もあります。
専門家が毎日いなくても、利用者さんの生活は毎日続いています。
「リハビリの専門家がいない施設」を、「身体を動かさない施設」にしない。そのために、誰を雇うかだけではなく、専門家の知見をどう施設の日常に取り入れていくか。
そこから考えてみてもよいのかもしれません。
参考文献・資料
1.厚生労働省「令和6(2024)年介護サービス施設・事業所調査の概況」
2.厚生労働省「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」
3.厚生労働省「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について」
4.小野雅之,川越潤一,金田拓人ほか「生活機能連携向上加算を用いた施設間連携の効果」『理学療法学Supplement』46巻Suppl.1,2019.
5.宮城県気仙沼保健福祉事務所「生活ケアで介護(看護)スタッフができる機能訓練(?)・リハビリとは―平成22年度気仙沼管内特別養護老人ホーム及び通所介護事業所機能訓練指導員支援事業を通じて―」2011.