「利用者さんに、もっと身体を動かしてもらいたい」
そう考えたとき、皆さんの施設ではどんな取り組みをしているでしょうか。
体操の時間をつくる。歩く機会を増やす。専門職から介助方法を学ぶ。
どれも、大切な取り組みです。
一方で僕は、利用者さんの健康を考えるうえで、もう一つ大切なことがあるのではないかと思っています。
それは、日々利用者さんと関わる職員さん自身が、「この人の健康のために何ができるだろう?」と考えられることです。
たとえば、朝の着替え。職員さんがすべて介助すれば、5分で終わるかもしれません。
でも、「ここはご自身でやってみますか?」と声をかければ、腕を動かす機会が一つ生まれます。
食堂までの移動でも、「今日は少し遠回りしてみます?」と声をかければ、歩く距離が少し増えるかもしれません。
どちらも「運動の時間」ではありません。
でも、こうした日常の小さな関わりの積み重ねも、利用者さんの身体をつくっています。
そう考えると、利用者さんの運動を増やすために必要なのは、運動メニューを増やすことだけではないのかなと思います。
では、こうした視点を持つ職員さんを、どう育てていけばよいのでしょうか。
厚生労働省は、介護現場の生産性向上に向けた取り組みの一つとして「OJTの仕組みづくり」を挙げています。
OJT(On the Job Training)とは、簡単にいえば実際の仕事を通して職員を育てることです。
介助の方法や業務の手順など、「どうやるか」を伝えることはもちろん大切です。
ただ、介護の現場で起きるすべての場面に、あらかじめ正解を用意することはできません。
だからこそ僕は、OJTでは「やり方」と一緒に、ものの見方を育てることも大切なのではないかと思っています。
「全部やってあげた方が早い」ではなく、「この方が自分でできることはどこだろう?」
「危ないから歩かない方がいい」だけではなく、「安全に身体を動かせる方法はないだろうか?」
そんな問いを持てる職員さんが増えれば、決められた体操やリハビリ以外にも、健康につながる瞬間を日常の中から見つけられるようになります。
ただ、ここでもう一つ考えておきたいことがあります。
職員さんに余白がなければ、そもそもそんな問いを持つこと自体が難しいということです。
余白とは、時間的な余白だけではありません。精神的な余白も含まれます。
次から次へと業務に追われている。
職場の人間関係に悩んでいる。
腰痛を抱えながら、毎日の介助を続けている。
そんな状態で、「もっと利用者さん一人ひとりを見て、考えて」と求められても、なかなか難しいものです。
だからこそ、業務を効率化したり、職員同士が相談しやすい関係をつくったり、働く人自身の身体をケアしたりすることも大切なのだと思います。
利用者さんの運動を日々の暮らしの中につくっていくのは、実際に現場で関わる職員さんです。
だからこそ、「健康を考えられる人をどう育てるか。そして、そのための余白をどうつくるか」。
利用者さんの健康づくりを考えることは、案外、そこで働く人や職場そのものの健康を考えることから始まるのかもしれません。