「転倒」の背景にあったもの――利用者の視点に立って見えたもの

こんにちは。理学療法士の佐野です。現場経験と組織づくりの知見から、介護の現場がもっと良くなるヒントを皆様と考えていきます。

つい先日、介護施設を利用する方のご家族とお話する機会がありました。

聞くところによると、介護施設の中で転倒し、大腿骨を骨折してしまったのだそう。

「うわ、大変でしたね。今は大丈夫ですか?」 当然ですが、まず初めに浮かんだのはそんな心配でした。

ご家族から転んでしまった経緯を聞いてみると、ご自身の部屋から事務所へ一人で歩いていた際に滑って転んでしまったのだそう。

それを聞くと、「掃除して床が滑りやすくなってたのかな?」「施設の人が部屋になかなか来なくて困ってたのかな?」など、施設側で何かできたことがあったんじゃないのかと改善点や原因探しをしたくなってしまう自分がいました。

しかし、もう少し深く話を聞いてみると、その方は「事務所のスタッフに、ネイルをしてもらおうと部屋を出た」のだそうです。

この話を聞いて、今回の転倒に対しての僕の印象は少し変わりました。

はじめは「ヒヤリハット事案」として、原因を突き止めて対処すべきだと考えていました。しかし背景を聞くうちに、「オシャレが好きな方なんだな」「スタッフさんと素敵な関係が築けているんだな」と、ポジティブな側面が見えてきたのです。

そして、「どうすれば安全にオシャレを楽しんでもらえるだろう?」と、前向きなアイデアに目を向けられるようになりました。

介護やリハビリの現場では、事故が起きると「なぜ防げなかったのか」「どう行動を制限するか」に意識が向きがちです。もちろん、安全管理は施設として欠かせません。

けれど、「なぜその人は動こうとしたのか?」という背景に目を向けると、その人らしい想いやスタッフとの信頼関係が見えてきます。

「ネイルが好きなら、定期的にお部屋へ塗りに行こうか」
「歩く意欲があるなら、リハビリを兼ねて一緒に行こうか」

ただ危険だからと制限するのではなく、ほんの少し発想を変えてみる。

大切なのは、リスクをゼロにすることだけを目指すのではなく、その人の「やりたい」を、どうすれば安全にサポートできるかという視点にシフトすることじゃないかなと感じた経験でした。

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この記事を書いた人
佐野和也

佐野和也

理学療法士。訪問リハビリや整形外科クリニックの現場で経験を積み、その後は企業の組織づくりの世界へ。「どうすれば人は前向きに行動したくなるのか」の視点を軸に、運動習慣の定着や会社組織のエンゲージメント向上などのテーマで、知見と現場のリアルを翻訳する取り組みを行っている。

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