トレッドミルでは不十分!?転倒予防に必要なトレーニングとは

 24時間オープンのフィットネス・ジムが増えています。天候に左右されずに隙間時間を運動時間に変換できる仕組みが人気を博し、店舗数は業界トップのチェーン店だけで1800店舗にものぼるそうです。ガラス張りのジムに目を向けると、トレッドミルで汗を流している人がたくさん。さてこのトレッドミル、使用している人の目的はさまざまだと思いますが、高齢者の転倒予防という観点ではどの程度の効果があるものなのでしょうか。

 2016年、世界的に権威のある雑誌として有名な”The Lancet”に、「課題のない単なるトレッドミル歩行」だけでは、転倒予防に必要な運動プログラムを学習させるには不十分である、という結論の論文が掲載されました(参考文献1を参照)。従来のトレッドミル・トレーニングを行う群と、トレッドミルにVRで「障害物を避ける」「方向を変える」といった認知課題を組み合わせた歩行トレーニングを行う群を比較した実験で、認知課題を加えるだけで転倒率が42%も下がることが証明されたのでした。つまり、転倒予防という観点では、トレッドミル歩行の効果はかなり限定的だということです。転倒のメカニズムに目を向けると、方向転換動作の不安定性や、周囲へ目を配り適切に障害物を避ける認知機能の働きが重要であることもわかっていますから、これは当然の結果とも言えるでしょう。

 では、VRなどの最新の機器を併用すれば、トレッドミルでも十分な転倒予防効果が得られるか?というと、これもまた疑問です。過去には、トレッドミル歩行と地上歩行のトレーニング効果を比較して、歩行速度や歩行機能の向上には地上歩行のほうが効果が高いことが証明されています(参考文献2)。さらに、方向転換動作を組み込むことができる特殊なトレッドミルを使用した場合でも、地上歩行の有用性には敵わないこともわかっています(参考文献3)。

 どうやら機械の上を歩く動作は、地上で自ら「前方へ進む」動作とは、脳や身体の使い方が違うようです。転倒予防という観点から考えると、トレッドミルでの直線歩行よりも、障害物を避ける必要のある地上歩行のほうがトレーニング効果が高いと言えるでしょう。朝夕はまだまだ気持ちの良い風が吹く季節です。ぜひ外へ出てウォーキングを楽しんでください。

参考文献
1 Mirelman A, et al., “Addition of a non-immersive virtual reality component to treadmill training to reduce fall risk in older adults (V-TIME): a randomised controlled trial”, The Lancet, 2016
2 Marsh AP, et al.,“Effect of treadmill and overground walking on function and attitudes in older adults”, Journal of Aging and Physical Activity, 2006
3 Nanhoe-Mahabier W, et al., “Lack of Short-Term Effectiveness of Rotating Treadmill Training on Turning in People with Mild-to-Moderate Parkinson’s Disease and Healthy Older Adults”, Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 2012

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この記事を書いた人
得原藍

得原藍

理学療法士、修士(学術)。総合病院・訪問リハビリステーションでの勤務を経て、バイオメカニクスの分野で修士号を取得。その後理学療法士養成校の教員として運動科学の授業を担当。現在は大学や民間のトレーナー・インストラクター養成機関で講義を持ち、運動関連企業や運動教室等のプログラム・デザインも手掛ける。

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