入院したら歩けなくなる!?退院後もしっかり歩くために必要なケアの3要素とは

「病院関連デコンディショニング(HAD:Hospital-associated deconditioning)」という言葉を知っていますか。入院に伴う身体機能および精神機能の低下を指すこの言葉が、近年とくに注目を浴びています。
「デコンディショニング」という言葉は、あたかも簡単に「元の状態に戻せる(可逆的である)」かのような印象を与えがちですが、ここでは、退院後も長期にわたり自立した生活が困難になるなど、極めて深刻な悪影響を及ぼす状況を指しています。短期間の入院をしただけなのに、退院時には歩けなくなっていた・・そんな実態がつぎつぎと明らかになっているのです。

ある研究では、急性の、非重篤な(それほど重くない)疾患で入院した高齢者515人のうち、53%が退院時には入院前と同じ距離(約400m)を歩けなくなっていたというデータも示されています。歩くことができる体力はQOL(生活の質)に直結しますから、退院後の生活支援を担うケア施設でも、この事実は無視できない問題であると言えるでしょう。
2024年に発表された「New Horizons in Hospital-Associated Deconditioning(病院関連デコンディショニングの新たな地平)」という論文では、HADを予防するには、身体機能の問題に注目するだけではなく、【栄養】や【認知機能】といった運動を支える要素に注目することが大切である、と結論づけています。これをもとに、高齢者向けの施設で実践できるケアの具体策を3つ、挙げたいと思います。

ひとつめは、食事についての介入です。入退院を経た利用者に対しては、特に食事時間の確保と介助について、一度観察と改善が必要です。体力が落ちているかもしれないという前提のもとで、入院前の食事時間を基準にしてどのくらいのペースで食べることができているか、様子を観察しましょう。

ふたつめは、運動です。病状が安定し、しっかり食べることができているのだとしたら、入院前よりも歩行やアクティビティに誘う回数を増やすなど、体力回復のための運動を取り入れるべきです。運動はよりよい睡眠にも繋がりますから、日々の体調を確認しながら「少し活動的な時間を増やす」ことを意識しましょう。

みっつめは、認知面の回復のための会話や活動を増やすことです。入院中はどうしても孤独な時間を過ごしがちですが、そのことが認知能力の低下に直結します。退院後、施設スタッフによる話しかけを増やしましょう。家族に「回復のために大切な時期です」ということを伝えることも重要です。面会や、通所ならば自宅での会話を、意図的に増やしてもらいましょう。

退院すれば元通り、というわけにはいかないことを知り、その後のケアについてスタッフ間で話し合って対策を取ることで、利用者の方々のQOL低下を防ぐことができます。QOLの維持は、生活上の介助量の増加を防ぐことにも繋がりますから、施設運営のポイントとして検討いただければと思います。

参考文献
1 Welch C et al. New Horizons in Hospital-Associated Deconditioning: A Global Condition of Body and Mind. Age and Ageing, 2024.

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この記事を書いた人
得原藍

得原藍

理学療法士、修士(学術)。総合病院・訪問リハビリステーションでの勤務を経て、バイオメカニクスの分野で修士号を取得。その後理学療法士養成校の教員として運動科学の授業を担当。現在は大学や民間のトレーナー・インストラクター養成機関で講義を持ち、運動関連企業や運動教室等のプログラム・デザインも手掛ける。

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