一人の利用者さんを、「チームで見る」ということ

介護施設では、一人の利用者さんに複数の職員が関わることが一般的です。早番、遅番、夜勤と勤務時間が違う職員がいたり、介護職員だけでなく、看護師や機能訓練指導員など、さまざまな専門職が関わったりしています。

しかし、複数人で関わっていることと、チームとして関わっていることは、同じなのでしょうか。

僕は、少し違うのではないかと思っています。

たとえば、ある利用者さんが立ち上がるときにふらつくようになったとします。転倒を防ぐために介助を増やすことは、もちろん大切な判断です。一方で、介助を増やすことで、自分で立ち上がる機会が減ってしまう可能性もあります。

では、安全を守りながら、その方が持っている力を生かすにはどうすればよいのでしょうか。

一人で考えると、どうしても自分の経験や知識の範囲で答えを探しがちです。しかし、普段の生活を見ている介護職員、体調を把握している看護師、身体の動きを評価する機能訓練指導員が、それぞれの気づきを持ち寄ったらどうでしょう。

「午後は疲れやすいけれど、午前中は安定している」
「椅子の高さを調整すると立ち上がりやすいかもしれない」
「では、午前中は見守りのもとで、ご自身で立つ機会をつくってみようか」

これは仮の例ですが、それぞれの視点を交わすことで、一人では思いつかなかった新しい関わり方が生まれることがあります。

実際に、厚生労働省が公表している介護施設の事例集にも、こうした取り組みが紹介されています。

ある介護老人保健施設では、介護職員や看護職員、リハビリ専門職など11名が参加するカンファレンスを月に1回実施していました。一人の利用者さんについて話し合う時間は、およそ10分です。

その中で取り上げられたのが、排泄動作の自立に向けた支援でした。職員が利用者さんの状態や普段の生活を共有し、話し合った結果、「寝る前のズボンの履き替えを、リハビリに組み込めないだろうか」というアイデアが生まれました。

そして、着替えの機会を増やすために、職員からの声かけの頻度やタイミングを見直したそうです。

ここで面白いのは、新しい運動プログラムを導入したわけでも、特別な設備を用意したわけでもないことです。

もともと生活の中にあった「着替え」という行為を、チームで考えることによって、自立につながる機会として捉え直したのです。

もちろん、カンファレンスを開けば必ずよいアイデアが生まれるわけではありませんし、この事例だけで身体活動量の増加や職員の負担軽減まで証明されたわけではありません。

それでも、チームで関わることの可能性を感じます。

チームの価値は、単に仕事を分担したり、情報を共有したりすることだけではないと思います。一人ひとりの経験や気づきが対話を通じて結びつき、それまでになかった選択肢を生み出せることにあるのではないでしょうか。

そして、それは必ずしも新しい人員を増やすことから始めなくてもよいはずです。普段の申し送りやカンファレンスの中で、「何ができなくなったか」だけでなく、「どうすればできるだろうか」と問いを交わしてみる。そんな小さな変化から、利用者さんへの関わり方も変わっていくかもしれません。

利用者さんの安全を守ることと、身体を動かす機会をつくること。その両方を考えるためにも、チームの力は大切なのだと思います。

一人の利用者さんに、何人が関わっているか。それだけでなく、その人たちの知恵がどれだけ交わっているか。

そんな視点から、日々の介護を見つめ直してみてもよいのかもしれません。

参考資料

厚生労働省「令和5年度 科学的介護に向けた質の向上支援等事業 事例集」p.30–31.

https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/001255064.pdf

Share on
Xでシェア
この記事を書いた人
佐野和也

佐野和也

理学療法士。訪問リハビリや整形外科クリニックの現場で経験を積み、その後は企業の組織づくりの世界へ。「どうすれば人は前向きに行動したくなるのか」の視点を軸に、運動習慣の定着や会社組織のエンゲージメント向上などのテーマで、知見と現場のリアルを翻訳する取り組みを行っている。

佐野和也が書いた記事一覧

コンパクトで場所をとらない

日常空間に溶け込むデザイン

歩行リハで自立支援・介護予防

お問い合わせ