2020年、アメリカでは高齢者の転倒に起因する医療費が800億ドルに達しました。約12兆円。2026年の日本の防衛予算案が約9兆円であることを考えると、いかに莫大な医療費かと驚きます。その背景には、日本と同様、社会の高齢化率の急上昇があります。アメリカだけではありません。OECD加盟国38カ国中33カ国が2050年までに「高齢化率21%以上(超高齢社会)」になると予測されています。転倒関連医療費について、「予防に投資したほうが圧倒的に安い」時代に突入したと言えるでしょう。
このような背景を受けて、2022年には、世界39カ国、91名の専門家が参加して「世界転倒予防ガイドライン(World Guidelines for Falls Prevention and Management)」が作成されました。このガイドラインでは、それまでバラバラだった評価指標を統合し、誰でも一貫した判断ができる「階層型(ステップ式)の評価アルゴリズム」が確立されました。専門家でなくても簡単に実施できるスクリーニングで、対象者を「低リスク」「中リスク」「高リスク」に分けられることが大きな特徴です。つまり家庭や施設で、転倒リスク群をあぶり出すことができるようになったのですね。方法は簡単。対象者に、以下の3つの質問に回答してもらうだけです。
<3つの質問>
- 過去12ヶ月以内に転倒したか?(回数と状況も確認)
- 歩行やバランスに不安や困難を感じているか?
- 「転ぶのが怖い」と感じているか?
<判定>
- 「転倒なし」かつ「歩行に不安なし」= 低リスク
- 「1回だけ転倒した(怪我なし)」または「歩行に少し不安がある」=中リスク
- 「過去1年に2回以上転倒」または「1回だが大きな怪我をした」または「歩行が明らかに困難」=高リスク
どうですか。簡単でしょう。ぜひ、年に一度、家庭や施設で実施してください。
さて、3つの質問の結果、中リスク以上に該当する場合には専門家に相談する必要があります。とくに、中リスクに該当する人は「グレーゾーン」。本人は大丈夫と思っていても、身体機能を精査する必要があります。「転んだけれど、怪我はなかった」と安心するのではなく、ここで一度、運動機能評価と呼ばれる歩行や筋力のチェックを受けましょう。具体的には、TUG(Timed Up and Go)テスト、SPPB (Short Physical Performance Battery)を実施し、その結果をもとに、低リスク・高リスクに合流させることになります。日本では、理学療法士や健康運動指導士、テストの内容を理解しているトレーナーなどがいる場所で、上記のテストを受けることができます。施設ではぜひ、機能訓練指導員とともに、定期的に中リスク群のチェックを行ってください。
<参考資料>
・Manuel Montero-Odasso et.al., “World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative”, Age Ageing, 2022 Sep 2;51(9) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36178003