「予備軍」の発見からはじまるサルコペニア予防

「急性サルコペニア」を知っていますか。入院や介護施設への入所、ショートステイをきっかけに活動量が激減し、わずか数日から数週間という短期間で、急速に筋肉量および筋力が低下していく状況を指します。サルコペニアはには生活機能の低下の視点も含まれます。単純な筋力低下だけではなく、身体機能にまで目を向けて診断されることが特徴です。

主なきっかけは、安静やベッド上生活。特に大きな疾患や怪我がなくても、高齢者の場合には「生活環境の変化」そのものが運動機械の喪失に繋がると考えられています。自宅での生活には、食事作り、掃除、洗濯、家屋への配慮など、目に見えない活動がたくさんあるもの。たとえば自炊をしなくても、配食サービスの届く時間を把握し、届けてくれた人とコミュニケーションを取り、片付けをする、小さな活動の集約が生活を成立させています。介護施設や病院での生活は、それぞれの生活スタイルよりも、施設全体の生活や治療・加療が優先されるため、どうしても全体としての運動量が低下し、食欲が落ち、身体機能低下の負のループに陥りやすいですから、早めに「サルコペニア予備軍」を同定して配慮することがひとつ重要な予防策となってきます。

いわゆるサルコペニアの有病率は、一般高齢者の場合に6〜12%、2型糖尿病やCOPD(慢性呼吸器性肺疾患)を伴う場合にはさらに頻度が上がります。また、慢性的な腎臓病を抱えて透析治療をしている場合には12.7%から33.7%と、研究によっては3割近くがサルコペニアを発症していると言われています。まずはこれらの疾患の有無で、施設の利用者の運動機能を確認していくことが大切でしょう。

施設で簡便に運動機能を確認する方法もあります。下腿周囲長によるスクリーニングと、『SARC-F』と呼ばれる5つの項目からなる検査です。Strength(筋力)、Assistance in walking(歩行時の補助)、Rise from a chair(椅子からの起立)、Climb stairs(階段を登ること)、Falls(転倒)、の5つの言葉の頭文字をとって、命名されています。それぞれの項目に「0点=全く困難でない」「1点=いくらか困難」「2点=非常に困難・またはできない」(転倒については回数で判断)という判断基準が示されており、合計点数が4点以上だと、さらに細かい筋力・身体機能の評価にうつることになります。詳細は文末の表をご覧ください。

急性サルコペニアは「急性」という名がついていますが、それはサルコペニア予備軍である高齢者の身体的な余力の少なさが大きく関連しています。ぎりぎりの体力レベルで生活を維持していた高齢者ほど、短期間の入院や施設入所などの環境変化で、容易に歩けなくなってしまうのです。ですから、大切なのはサルコペニアに陥る前の体力維持、そのための栄養摂取ということになります。まずは下腿周囲の計測と、『SARC-F』の実施で、施設利用者の身体機能をチェックしましょう。そして、サルコペニアの危険性が高いと判断された場合には、日常生活上の運動量を確保する工夫をし、その後の介護量の増加を減らすことに繋げましょう。

(参考資料の文献『サルコペニア診療ガイドライン』より引用。https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2162/_pdf/-char/ja にて公開されています。)

<参考資料>
荒井秀典『サルコペニア診療ガイドライン』日本内科学会雑誌、2020

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この記事を書いた人
得原藍

得原藍

理学療法士、修士(学術)。総合病院・訪問リハビリステーションでの勤務を経て、バイオメカニクスの分野で修士号を取得。その後理学療法士養成校の教員として運動科学の授業を担当。現在は大学や民間のトレーナー・インストラクター養成機関で講義を持ち、運動関連企業や運動教室等のプログラム・デザインも手掛ける。

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