「運動」と聞くと、スポーツやジム通いのような、特別な時間を設けて行うものを想像する方が多いかもしれません。しかし高齢者の健康を考えるとき、注目したいのは日常生活の中にある身体活動です。
今回ご紹介するのは、スペインの高齢者を対象とした大規模な追跡研究です。散歩や家事、庭仕事といった身近な活動と死亡リスクとの関係が報告されています。
この研究では、ベースラインの身体活動データと生存状況がそろった6,645名を主な解析対象とし、そのうち3,963名については時間経過による変化も分析しています。参加者の平均年齢は70.4歳で、約53%が女性でした。参加者は、ウォーキング、サイクリング、庭仕事、DIY(日曜大工)、スポーツ、家事に1週間あたり何時間を費やしたかを回答しています。追跡期間は、一方のコホートで平均11.6年、もう一方で平均5.1年にわたります。
結果は明快でした。ウォーキング、庭仕事、スポーツ、家事はいずれも死亡リスクの低下と関連しており、その低下幅は20〜46%でした。また中強度・高強度の活動も、28〜53%の死亡リスク低下と関連していました。注目したいのは、家事が「運動」と同じ列に並んでいることです。ウォーキングと家事は参加者の間で最も一般的な活動でもあり、特別な道具や場所がなくても取り組めるものです。
さらにこの研究の特徴は、活動量の「変化」にも目を向けた点にあります。ウォーキング、スポーツ、家事を維持した人では、それぞれ死亡リスクが40%、37%、33%低く、庭仕事や家事を増やした人では29%、40%低いという結果でした。そして身体活動全体で見ると、一貫して活動量がとても少なかった人に比べ、活動量を増やした人は57%、維持した人は52%、そして減ってしまった人でさえ36%、死亡リスクが低かったのです。つまり、たとえ年齢とともに活動量が落ちたとしても、「ゼロにしない」ことそのものに意味があると読み取れます。
これを介護施設の現場に置き換えて考えてみましょう。施設での生活は安全や効率が優先され、利用者の方がそれまで自宅で担っていた洗濯物たたみ、配膳、植物の水やり、ちょっとした片付けといった役割が、職員の手に移ってしまいがちです。しかし、これらは本人にとって「生活の中の身体活動」そのもの。できることを本人に残し、役割として続けてもらうことは、立派な介護予防の取り組みになり得ます。体力を維持する、ということを考えたとき、施設内での作業を高齢者と分担する、ということも視野に入れて良さそうです。
なお、この研究は観察研究であり、活動量は本人の自己申告によるものです。「家事をすれば寿命が延びる」と因果関係を断定できるものではありません。それでも、日常の何気ない動きを積み重ね、それを途切れさせないことの価値を示すデータとして、現場のケアに活かせる知見ではないでしょうか。まずは利用者一人ひとりが入所前にどのような生活活動をしていたかを把握し、「続けられること」を一緒に探すところから始めてみましょう。
<参考資料>
Duarte Junior MA, Martínez-Gómez D, Pintos-Carrillo S, Sotos-Prieto M, Ortolá R, Rodríguez-Artalejo F, Cabanas-Sánchez V. “Associations of physical activity type, volume, intensity, and changes over time with all-cause mortality in older adults: The Seniors-ENRICA cohorts.” Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 2024; 34(1): e14536.