↑ スタンフォード大が開発したAI筋骨格解析技術「OpenCap」を用い、walkeyと共同開発した歩行解析システム。
2023年末、ひとつのネット記事が業界関係者の耳目を惹いた。その記事のタイトルは「スタンフォード大発のAI筋骨格解析技術を活用し、歩行分析システムを開発。㈱walkey」。東京・自由が丘にある小さなトレーニングジムが、スタンフォード大が開発した最先端の技術を使った新システムを立ち上げたという報道だ。
スタンフォード大学の研究者が開発したのは、オープンソースの3Dシミュレーション技術「OpenCap(オープンキャップ)」。スマートフォンで撮影した人間の動きを、3D動画にする画期的なAI筋骨格解析技術として世界中で注目されている。
人間の全身の動きを3Dで可視化する、いわゆる「モーションキャプチャー」は、人体の各所に40以上のマーカーを付け、複数の赤外線カメラで撮影した位置情報をもとに解析する必要がある。
CGキャラクターやアニメ、スポーツ選手の動作解析、ロボットやドローンの制御などにモーションキャプチャーが活用されているのは、ご存じの通り。しかし、現在主流になっている「光学式」のモーションキャプチャーは、複数のカメラを用意するコストと撮影空間の確保など、大掛かりにならざるを得ないことが課題となっている。
モーションキャプチャーには、赤外線カメラを使った光学式以外にも、カメラ不要の慣性センサーを使った方式、マーカーレスのビデオ動画による算出方式などもある。しかし、精度が低かったり、解析に時間を要したりなど、一長一短があるのが現状だ。
これに対し「OpenCap」は、iOS対応デバイス2台と、画像の歪みを補正するためのキャリブレーションボードというパネルだけで、全身の3次元座標を特定して数値化、高精度のモーションキャプチャーデータが得られる。大掛かりなカメラ配置も、マーカーも「OpenCap」には不要なのだ。
「OpenCap」が日本で最初に協業したのは、walkey!
「OpenCap」は、オープンソースだけに、商業利用以外では、誰でも自由に使うことができる。一方「OpenCap」の商業利用に関しては、スタンフォードの研究者が立ち上げたモデルヘルスという会社が管理し、利用のサポートを行っているという。
「walkeyは、日本で初めてモデルヘルス社の『OpenCap』を商業利用した企業になりました。モデルヘルス社も、日本のベンチャーである私たちと組むことで、さらに広い分野からの細かいニーズを吸い上げて、『OpenCap』をよりブラッシュアップしたいという意図もあったと思います」
こう語るのは、walkeyの開発プロジェクトを技術面で指揮する鹿子泰宏(walkey取締役)である。マーカーレスで、撮ったと同時に3D動画になる「OpenCap」は、先述したように、オープンソースであるメリットを活かし、ビックデータを取り扱いはじめている。つまり、AI解析のブラッシュアップを各段に進化させる開発環境を持っていることになる。すでに開発の進化に歯止めのかからない状況を手に入れている「OpenCap」に、世界が注目している。
スタンフォードとの連携は、walkeyのお客様へのサービス向上のため
「以前から、スタンフォードの『OpenCap』の研究室とは繋がっていて、モデルヘルス社が設立される前から、walkeyへの協力を打診していました。目的は、歩行動作を数値化して分析ソフト化し、walkeyのお客様へのサービス向上に役立てるためです」
「OpenCap」を使って開発したwalkeyの歩行動作の分析システムは、歩行速度、足の接地時間、歩幅、歩隔(着地時の左右の足の間隔)、ステップ長、左右差はもちろん、3D画像によって1歩のサイクル(ケイデンス)まで忠実に再現することが可能だという。
「その際、重要になるのは各関節の角度です。左右1歩ずつ進むケイデンスの軌跡として、各関節の角度の変化まで確認できます。トレーニング前後の計測を比較して、どれくらい改善したのかを知ることができるのです」
客観的な“歩行の評価”を、誰でもカンタンに!
「OpenCap」によるwalkeyの歩行分析システムは、今後、walkeyの店舗で定期的に顧客に提供される「歩行アセスメント」に用いられる予定だ。walkeyでのトレーニングの成果を、数値として提供し、利用者のモチベーションのアップにつなげていきたいとwalkey担当者は語る。
「ちゃんと目標通りに足で蹴り出ししているかなど、僅かな変化でも数値化できるので、より成果を実感してもらえるのではないかと考えます。何より、トレーナーの熟練度に左右されずに、客観的な評価ができる点が最大の魅力です」
これまで“歩行の評価”には、一定の知識や経験が必要とされてきた。歩行分析を仕事とする理学療法の世界でも“客観的な歩行評価”は長年の課題となっており、今後はこの分野でも、この共同開発による歩行分析システムを役立てることが期待できる。
今回walkeyと協業したモデルヘルス社からも、次のようなコメントが寄せられたという。「我々モデルヘルス社は、人々の歩き方を数値化するテクノロジーを提供することで、高齢者の生活の質を向上させるという活動を進める walkey社と協力できることに興奮しています。 歩くことは日常生活の重要な活動であり、自立を維持するための鍵です。 私たちは、walkey社 が当社のテクノロジーを使用することで、歩行の欠陥を特定し、より一層高齢者のウェルビーイング増進のサポートができることを期待しています」(報道記事から引用)
“歩ける人生を届ける”walkeyのミッション
walkeyは、東京・自由が丘にある小さなトレーニング施設である。しかしその運営スタッフは日夜、「歩行」に並々ならぬ情熱を注いでいる。目指すは、世界一! 歩行専門の施設として突き抜けた存在を目指し、最新の技術を取り入れ続けている。
「歩くことができるということと、QOL(生活の質)は相関関係にあります。そのQOLを保ち向上し続けるために、私たちwalkeyがあるのです。」
「私たちは、『歩行分析 正常歩行と異状歩行』という名著を記した整形外科医のジャクリン・ペリー氏の意志を受け継ぐ米国ランチョロス・アミーゴス病院(歩行分析施設として世界屈指の病院であり、全世界からの研修に集まる人が絶えない)への視察や、同病院の医師からのアドバイスも受けながら、歩行に関する研究を日々進めています。」
「“歩く”という、みんなが当たり前にやっていることが、どれだけ大切か。歩くことができない人は、どれだけ苦しんでいるか。それを深く理解して“助けたい”と切に願う気持ちの強さに感銘を受けました。我々のような後進の者は、こうしたバックグラウンドをしっかり理解した上で進まないと、取り扱ってはならないようなテーマだと感じています」
スタンフォードの研究者たちが、無名に等しい日本のベンチャーに協力の手を差し伸べたのは、“歩ける人生を届ける”というwalkeyのミッションへの共感だという。「歩行」を極めるべく高みを目指すwalkeyと、世界の名だたる研究機関とのライブセッションは、これからも熱く激しく、そして静かに続く。