walkeyがフラウンホーファーIPAで行った評価を元に解析した動画。
前面:https://youtube.com/shorts/C0pxrnqRSEs
後面:https://youtube.com/shorts/MgTckxPQjP4?feature=share
日本で生まれた、歩行専用トレーニングサービス〈walkey(ウォーキー)〉。トレーニングと歩行の専門家が携わり、国内屈指の医療機器メーカーが開発したデバイスを用いて、誰もがトレーニングを続けやすいシステムをも構築、業界の注目を集めている。
walkeyが追求するのは「歩く」こと。利用者にベストなトレーニングサービスを提供すべく、歩行に関する研究にも余念がない。そのひとつが、海外のトップクラスの研究機関との連携である。今回は、walkeyによるドイツの産官学連携の研究機構「フラウンホーファー」との取り組みを紹介したい。
「フラウンホーファーは、量子技術からバイオテクノロジー、MEMSと呼ばれるナノテクデバイスなど、最先端の研究を行っています。そのフラウンホーファーには、生産技術の自動化に取り組むフラウンホーファーIPA(生産技術・オートメーション研究所)があります。今回、私たちは、walkeyデバイスを使ったトレーニングの適切な測定方法、さらに評価方法の策定をIPAと取り組みました」
と語るのは、walkeyデバイスの開発に関わった鹿子泰宏である(walkey取締役)。IPAのバイオメカトロニクスシステムのユニットは人間の動作の数値化とその制御に関する研究の世界的拠点としても知られ、義足、パワードスーツの開発実績から動作の分析や数値化に長けた研究者たちが在籍している。「歩く」を極め、walkeyを世界でもトップのデバイスに進化させるべく、IPAの門を叩いたのである。
高齢化という社会課題に、walkeyが貢献できること。
「今回の取り組みは、walkeyを使ったトレーニングが、関節に与える影響を数値化するための適正な計測方法を見出し、その評価方法を定めることが目的でした。そのため、モーションキャプチャーを用いてwalkeyデバイスを使ったトレーニングでの関節の角度や動きを計測し、その際の筋肉の放電量を筋電図検査で調べました」
フラウンホーファーとの取り組みが始まったのは、2022年の7月。ちょうどコロナ禍だったため、当初は現地にも行けず、コミュニケーションはオンラインの会議のみ。開発されたばかりのwalkeyデバイスが提供する独自のサービスについてオンラインでやりとりすることに苦労したという。
「でも最終的には、とてもスムーズに話が進みました。それは、ロコモやサルコペニアといった社会課題に対して、若いうちから予防のためのトレーニングに取り組むべきという、世界中の研究者たちの共通認識があったからです。そんな話をIPAのスタッフも私たちに語ってくれました」
IPAの研究チームからも、今回の取り組みを振り返り、次のようなコメントが寄せられている。「walkeyでのトレーニングは、三次元的な動きで全身を鍛えます。 トレーニングを正しく行えば、人間の動作に必要な表在筋群と、バランス機能に重要な深層筋群に作用します。今回の私たちの計測で、その効果の一部を実証する事が出来ました」
IPAとの取り組みは、walkeyの効果を客観的に評価するため。
walkeyは、床に置いたデバイスの上に立ち、ワイヤーを引くことで狙った部位に負荷が掛かる。(高精度なゼンマイを内蔵しており)戻す際にも一定のテンションを保ち、限りなくアイソトニック(等張性運動)に近い運動を実現し得るマシンである。ワイヤーの軌道の自由度が高いモーションフリー系のデバイスながら、家庭で使えるシンプルかつコンパクトな設計がwalkeyの最大の特長だ。
walkeyは、ダイナミックにワイヤーを引き上げる、下肢と上肢を連動させた複合関節運動にも適している。コンセントリック(短縮性筋収縮)でもエキセントリック(伸張性筋収縮)でも負荷を掛けられるため、効率的に歩行力の強化に取り入れることができるデバイスなのだ。
「IPAでの実際の測定もwalkeyの特長を引き出すべく、下肢と上肢を連動させてワイヤーを斜めに捻り上げるローテーションスクワットで行いました。IPAのおかげで、モーションキャプチャーと筋電図検査によるwalkeyデバイスでのトレーニング効果の客観的な評価方法を決めることができました」
フラウンホーファーIPAとのプロジェクト後、動作データはwalkey での筋骨格シミュレーション(「AnyBody」を用いた3次元解析)に利用されている。
深部の筋肉やインナーマッスルの動きまで可視化
現在walkeyでは、IPAと取り組んだ計測方法と評価方法を用いて、walkeyデバイスのトレーニング効果をきちんと論証すべく、国内外の大学・研究機関と連携してさらなるデータの収集と解析を行っているという。
「今回、IPAとの取り組みで得られた成果のひとつは、歩行に関して働いている深部の筋肉や微細なインナーマッスルが、walkeyのトレーニングでどのように働くかが分かったことです。IPAで得られた動作データと筋電図により、実際に全身のどの筋肉が、どのタイミングで、どのぐらい活性化しているか算出できました」
walkeyのトレーニング効果を、日本予防理学療法学会で発表!
こうして得られた計測データをもとに国内での比較実験を行い、その結果は2023年10月末に北海道函館市で開催された「第10回日本予防理学療法学会学術大会(共催、第6回日本産業理学療法研究会学術大会)」で発表された。
この学会には、リハビリなどに従事する理学療法士(PT)だけでなく、理学療法を学ぶ学生、整形外科や高齢者などに関わる医療従事者、さらにはスポーツやトレーニングのトレーナーなど、まさに“100年歩ける身体づくり”に日々取り組む専門家が参加している。
「walkeyが日本でちゃんと認識されるか、それを確認することが目的でした。日本の研究者や現場の方々からの評価を聞き、これからの課題を確認するチャンスだと思って臨みました」
walkey vs.チューブトレ! walkeyの高いトレーニング効果を実証。
「walkeyは開発段階から、チューブトレーニングを意識していました。チューブの特徴は、伸び始めの初動はテンションがなく、伸びきる終動で負荷がとても強くなる点です。そのため高齢者などチューブに不慣れだと、トレーニング時の負荷の調整が難しいことが従来より指摘されていました」
walkeyのターゲットユーザーには、普段運動してない人や高齢者も想定されている。そのため安全面からも、急激な負荷の変動がないデバイスを開発する必要があった。この比較試験では、安全かつ効果的なトレーニングデバイスとして、walkeyの優位性を専門家たちに客観的に示す必要があったのだ。
こうして日本予防理学療法学会で発表されたのは、walkeyデバイスでの高いトレーニング効果を示す、以下のグラフだ。ゴム製のトレーニングチューブとwalkeyデバイス、さらに負荷のない状態の3者の比較実験である。
体幹の深部にある、姿勢の保持や歩行に大きく関係する筋肉たちへの3つのトレーニングを比較。いずれの筋肉でも、緑のwalkeyの波形が高く、筋肉の活動量(筋放電)が大きいことが示されている。
次のグラフは、気になるお腹周りの内腹斜筋への影響を調べたデータである。内腹斜筋は、骨盤に手を当てて、指を拡げてお腹を支えるような形状で拡がっている。この筋肉に対しても、チューブよりも高い負荷が掛かっているのが分かるはずだ。
walkeyでは、モーションキャプチャーや筋電計だけでなく、被験者の口に付けたマスクから呼吸時の二酸化炭素の割合(呼吸商)も調べ、walkeyデバイスでのトレーニングによる全身への影響も調べている。
さらには、walkeyデバイスでのトレーニング時に、人間のカラダがどのようにバランスを取っているのか、床反力計を用いた実験と解析も。歩行に与えるwalkeyの可能性への、あくなき探求を続けているのである。
理学療法の領域でも、walkeyは大きな可能性を持っている。
ベンチャーとしてスタートしたばかりのwalkeyだが、世界的な研究機構であるフラウンホーファーIPAと組んで、独自に開発したデバイスでのトレーンニングを客観的に計測する方法、さらには第三者的な視点での評価方法まで構築している。
その上で、walkeyとチューブでのトレーニングの比較実験を行い、客観的なデータとして発表したことには、予防理学療法学会に参加した医療関係者たちからも驚きとともに、高い評価を得られたという。
「今後の課題は、さらに広くデータを蓄積することです。理学療法の領域でwalkeyはとても大きな可能性を持っています。walkeyを使った高齢者のトレーニングデータ集積のための大学の研究室との連携も、実は水面下ですでに進んでいます」
東京・自由が丘に小さなラボを構える、歩行専用トレーニングサービスwalkey。「歩行」に本気で取り組むwalkeyによる、米国スタンフォード大学とのさらなる連携プロジェクトについては、次回紹介したい。